アルゼンチン・タンゴの音楽に酔いしれた一夜
デビュー25周年を迎える小松亮太さんを迎えタンゴ・コンサートを開催しました。
演奏は、小松亮太さんが信頼をおく奏者10名で編成されたタンゴ・アンサンブルと、
ゲストにはジャズ・ピアニスト国府弘子さんを迎え、アルゼンチン・タンゴの全盛期を彷彿とさせる豪華な構成となりました。
前半は「タンゴ音楽で世界を旅する」と称し、アルゼンチン、ドイツ、アメリカなど、各地の音楽家が作曲したタンゴの名曲たちが並び、後半は、小松亮太さんのオリジナル曲やアストル・ピアソラの名曲たちを、ゲストの国府弘子さんとともにお届けしました。迫力ある演奏に心を奪われ、小松亮太さんの強烈なタンゴ愛に心を打たれ、国府さんとの掛け合いはユーモアにあふれお客様を笑いに包みました。
アフタートークでは普段では聞くことのできないコンサートの裏側のトークなども披露され、音楽とお話を通して「アルゼンチン・タンゴ」の世界に浸る一夜となりました。
ご来場いただきましたみなさま、ありがとうございました。
★おまけの写真★
ー小松亮太インタビューー
一人でも多くの人にタンゴの魅力を伝えたい
|25周年を迎えた今、タンゴ界へ寄せる想い
「新人のバンドネオン奏者が僕だけだった時代から考えると、バンドネオン奏者は増えているかもしれないですが、僕は「バンドネオンやタンゴが、もっと広がったらいいな」と、より大きな夢を描いていました。ただ、本場・アルゼンチンでも世界的にも、25年前と比べて、タンゴミュージシャンが少なくなっているんです。どこの国でもそうなんでしょうけど、若い人たちがクラシックやジャズ、ロック、ポップスに行っちゃうんですよね。
本当に、昔のタンゴの良さを生で見たことのあるのが、僕の世代が最後なんですよ、世界的に。最近は少し復活してきているみたいですけど、これだけバンドネオンが珍しい楽器になって、タンゴという音楽も珍しいものになってしまったので、これからもさらに、新しい奏者を育てるなり、タンゴの本当の姿を宣伝していくなり、しなければならないと思っています。」
|バンドネオンを取り巻くさまざまな誤解
「バンドネオンというと"悪魔が発明した楽器"というフレーズをよく見かけますが、これは日本だけに広がっているものなんです。ヨーロッパやアメリカでは「悪魔、楽器」で調べてみても、そのような話はどこにも出てこないですから。それと、"パイプオルガンが設置できない小さな教会で、持ち運び用のオルガンとして発明されたもの"という話もありますが、事実は違います。
僕はこういう作り話が広がっているのは良くないと思ってます。確かにバンドネオンは、ドレミファが順番に並んでいないという意味では難しい楽器ですけど、どの楽器にも簡単なところと難しいところがあって、それが違うだけなんです。管楽器や弦楽器と違うのは、押せば音が出るんですよ。それは、とっても簡単なところ。管楽器や弦楽器の人たちは綺麗な音を出すのに、長い時間がかかるんですから。それを考えたら、バンドネオンの演奏が"悪魔的に難しい"ということはありません。僕はバンドネオンを広める立場ですから、「ちゃんと練習すれば、弾けるようになる楽器」ということをアピールしていって、練習したい人が誰でも練習できる状況を作らないと、と思って頑張っています」
|タンゴは人工的に作られた音楽だからこその魅力がある
「タンゴは、アルゼンチンの首都・ブエノスアイレスで発展しました。いろいろな国の人たちの手によって、わざわざ人工的に作られた音楽なんですね。クラシックやジャズ、劇場音楽に関わっている人たちが、意見を出し合ったり、いろいろな曲を作曲したり、楽器編成を試してみたりしながら作っていったんです。
タンゴという音楽には、タンゴならではの演奏法がたくさんある。それと同時に、クラシックやジャズと同じところもたくさんあるところが、面白いと思うんです。
それとアレンジが命です。もちろん、もともとの曲の良さも大切なんですけど、タンゴほどアレンジメントが発達したジャンルは他にないでしょうね。一つの曲がアーティストによって、こんなにも変幻自在に違う曲であるかように姿を変えていくのが、最大の魅力ですね」
|本物のタンゴの音楽を。今回のコンサートでのこだわりとは
「メンバーでいうと、コントラバスの田中伸司さん。もともとはNHK交響楽団など、クラシックを中心に活動をしていましたが、僕の両親のバンドで20代ごろからタンゴを始めて、今では彼ほどタンゴの弾き方を知っている人はいないんですよ。ピアノでは熊田洋さんも素晴らしい方です。彼は70歳を超えていますが、タンゴのアレンジができる一人なんです。
選曲でいうと、"ラ・クンパルシータ"という曲ですね。今回の曲は、1951年のアストル・ピアソラのアレンジです。ピアソラがアレンジした中では、もっともレコードが出ていないんですが、とても素晴らしいアレンジなんです。以前にアルゼンチンで演奏した時は非常に話題になりました。王道だし有名な曲だからというのではなくて、いい曲だし、いいアレンジだから演奏したい、という思いの方が強いですね。"リベルタンゴ"も素晴らしい曲ですが、曲の凄さっていう意味では、"ラ・クンパルシータ"が上ですね。あとは"薔薇は美しく散る"。この曲でタンゴのサウンドに慣れてもらおう、ということでアレンジしてみたんです。これがまた難しくて・・・。でも、いいアレンジになったと思います。
|ゲストの国府弘子さんの魅力とは
何といっても「うまい」ということです。あとは、本当の意味で積極果敢だと思いますね。これまでいろいろなジャンルの人と共演したことがありますが、ずいぶん音楽的に近くなれたと思います。タンゴの曲を成立させるために、ピアノには特に"決まり事"が多いんです。初めて共演したのは12年くらい前だったと思いますが、ジャズでの経験や実績、今までとは異なる要求に対して大きなハードルを越えてきてくれた信頼できるピアニストです。今回は3~4曲ほど共演を予定しています。
|今回のコンサートに寄せて
こういう大きな編成で演奏するときは、僕の本領発揮だと思っています。
タンゴのコンサートに来たことがない方でも、わかりやすい説明を添えながら、タンゴの演奏を楽しんでもらいます。例えば、タンゴの音楽のリズムがどう出来ているのか、をベースの人に弾いてもらって説明すると、「なるほど、そうやって聞けばいいのか」ということを感じてもらえる。ジャズともクラシックとも違い、こんなことをやっていたのか。こんな事、こんなサウンドをやっていたのか。など、みなさんがまだ知らないタンゴが、てんこ盛りにありますので、そこを狙ってぜひ来て欲しいですね。そして、普段、クラシック、ジャズ、ポップスと他のジャンルを聞いている人たちに聴いてほしいです。あ、なるほどな。と思っていただけることがたくさんあるんで(笑)